赤い花

君と手を繋いで歩いてきた、長い長い道のり。
決して楽ではなかった、きつい上り坂もあった、
雨の日も、台風の日もあった。
けれども、ずっと二人で、歩いてきた。

これからも、君と二人で歩いて行こう。
この道の果てまで、年老いて歩けなくなるまで。

けれど、ふと見れば、あんな崖の上に咲く花がある。
赤い花。

なぜだろう、僕は、あの花が、

その一言を言えば、今までのすべてが無に帰る。
努力が、涙が、道程が、霧の向こうへ帰るだろう。
決して、言ってはならない。

あの花にたどり着く道はない。
この穏やかな道を外れ、崖を登らなければならない。
道なき道を。
危険な崖を、命を賭けて。
君の手を離して。
たどり着いたところで、まだ咲いているかも分からない花なのに。

一緒に歩こう。
僕は、君と行く。

けれど、僕は、あの花が、

他人は愚かだと笑うだろう。
自分でも嫌になるほど分かっている。
通りかかった路傍の花に、何の価値がある。
君を置いて、行くことは出来るはずがない。

毒があるかもしれないのに、棘があるかもしれないのに、
名前さえ知らない花なのに。

それなのに、僕は、あの花が、

幸せはここにある。
僕と君の、二人繋いだ手の中にある。
離す必要はない。

僕は、あの花が、

なぜ。どうして。
あの花は、今ひととき、咲いているだけ。
それなのに。
あの花が、

あの花が、






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