終章〜『また会う日まで』
青い天井からのぞく、巨大な銀色の金属柱。
あれはまぎれもなく、条寇の舳先だ。
「おい…もう用事は済んだろ?」
「まだいたのか?」
「放っとけ、また面倒に巻き込まれるのはゴメンだからな」
口々に適当なコトを並べて、彼らはさっさとその下を通り過ぎようとする。そもそも、船の修理が終わったのなら、連邦軍直属の宇宙ステーションにいつまでも居残ってたって、百害あって一利なしだ。
っていうか、宙港じゃなくてココに直接来ているというのがまた、問題あり過ぎなのだが。
案の定、ぱかっと先っちょが開いた。
「あ、やっと戻って来た」
「お待ち申し上げておりましたわ〜」
かなり見慣れてきた美女二人がそのてっぺんから顔をのぞかせて、きゃいきゃい笑いながら手を振った。
「おぉう、ハニー♪」
たちまちミザールの表情が満面の笑顔になった。さすがはグラビアモデル。
他のメンバーたちは、さっさとその場を立ち去るべく、彼の側からスススと離れて帰途につく。
「また遊びに来てくれたんだね〜?」
「えへへ」
彼女たちは可愛い笑みを浮かべ、また前と同じように、グライダーの翼を広げて颯爽と舞い降りてきた。だが、二人は、両手を広げたミザールの脇をするりとすり抜けていく。
「え?」
驚く彼を尻目に、マルカとエレミアはすっと、彼の両脇に立った。
「さあ、帰りますわよ」
「船内グッチャになったからね、しっかり掃除してもらうわよ」
「え?え?」
両腕をガッチリつかまれたのは、ティナだ。そのまま、マルカが笛を吹いた。
ピィ――――――――……
「おいおい」
ウンザリといった顔でアクイラがツッコミを入れた。
「もしかして、またか?」
「もしかしなくても、そうだろう」
眉を寄せるエディの目の前に、どしゃどしゃと海賊たちが現れる。
「頂いていきますわー!!」
言うが早いか、今度は電光石火の勢いでティナを引っつかみ、ワイヤーに乗って急上昇!前回ミザールの拉致に失敗した経験を生かしたのか、ザーウィンたちがあっけに取られているうちに、双子とティナはもう舳先の上だ。
「お前らー!!」
山盛りの海賊に取り囲まれて、押しくらまんじゅう状態になっているザーウィンが叫んだ。
「今度はティナかー!!」
「待て、君たち!もう彼は、連邦に所属しているれっきとした軍人だぞ!」
同じく人ごみからどうにか顔を出したユナイ中将が叫ぶ。
「おい、コラ!返しなさい!!」
「ヤだよー、だ!」
マルカが可愛く舌を出す。そして、一枚の紙切れを上空からピラッと落とした。
実にのんびりと、右へ、左へ、大きく揺れながらソレは舞い降りてきて、やがて、エディの肩に立ち上がったニーナがつかんだ。
「え〜と、何何?」
声を出さずに目で追ううち、次第に彼女の顔が怪訝そうな表情になる。
「…そうなの?」
「そういうことですわ〜」
エレミアが微笑む。その一方で、マルカがまた笛を取り出した。
「と言う訳で、撤収!!」
「はッ!!」
一斉に、波のように海賊たちが引く。ワイヤーにブドウよろしくみなでぶら下がり、来た時同様あっという間にスルスル上がって消えていく。
「…まさか、これも」
ユナイ中将がふと、真剣な顔になった。例の紙を持ったニーナを振り返って尋ねる。
「新しい作戦だとか言うのではないだろうね?」
「違うよ。ハイ」
渡された書面に目を通す。そこには――
『少佐ティナ・フージョを、条寇所属とする。』
たったそれだけの書面だが、そこには、くっきりはっきりコルト首将の直筆サインがある。
「おいこらちょっと待てー!!」
ザーウィンが叫んだ。
「何で海賊なんだよ!?」
「知るか!」
見上げた先で、ゆっくりと船の舳先は引っ込んでいく。
「中将、どうします?」
エディが新しい上官を見下ろして尋ねた。彼女はきゅぽん!と音を立てて金属柱が引っこ抜けるのを見送り、にこっと微笑んだ。
「首将の決定なら、構わないでしょう。あの人のことだから、また何か考えてるのかも」
「ったく、全然分かんないねェ」
アクイラが煙草のフィルターをギリギリと噛みながら答える。
「いっそ…首将もやめさせてやるか?」
一瞬の沈黙。
そして、全員が顔を見合わせ、笑った。
「なんてな!!」
全部分かりきった作戦なんて、そんな面白くないコトやってらんない。そんな連中だから、彼らはここに集められたのだ。
「変わりモンの首将に変わりモンの部下。いいチームだ」
ユナイとコウも、ついに居場所を見つけた。
その頃、コルト首将は。
「へっくしょい!」
誰か呼んだかな?
でも、執務室には誰もいない。カンティ補佐官は、食堂へ二人の食事を受け取りに行っている。
「あ〜あ、俺もシィクさんの手料理食いたかったな〜…」
明日こそは、仕事を早く終わらせて遊びに行こう。いや…
「今から行こう!」
そっと、というにはあまりにも堂々と、執務室を抜け出して、彼は廊下を駆け出した。
「あ、首将ッ!!どこへ行くんですか〜!」