(舞台は真っ暗。突然の声。)
友人 保ーっ!危なぁーいぃ!!
(効果音;キキーッ、ドン。ピーポーピーポーと救急車のサイレン。幕が開くと、場面は病院の一室。かおり、ベッドのうえで漫画など読んでいる。母親、花など持って様子を見にくる。)
母 かおり、元気?
かおり うん。
(しらける。)
かおり 入院してるのに、元気ってこともないね。
母 そうね。
(もっとしらける。かおり、また漫画を読む。)
母 かおり。
かおり なあに?
母 少しは、考えてくれたかしら。
かおり お見合いの話はよしてちょうだい。
母 お母さんは、あの人いいと思うんだけど…こら。あんたまだいくつだと思ってるの。何が見合いよ、まだ17でしょう。
かおり ばれたか。
母 話をはぐらかそうとしても無駄よ。
かおり じゃあはっきり言う。あたし、手術受けない。
母 かおり。
かおり 嫌。誰が何と言おうと、あたし、絶対、手術受けない。
母 お願いよ。お願いだから、かおり。
かおり 嫌ぁー。絶対、絶対嫌ったら嫌!
母 受けてちょうだい。お母さんの、一生のお願いよ。
かおり 嘘。一生のお願いなんて、嘘でしょ。
母 そんなつれないこと言わずに。
かおり 嫌なものは嫌。ぜーったいに、嫌!
医者 おー、またやってますね。
(看護師を引き連れて、医者登場。)
母 あっ、これはこれは先生。お世話になります。
かおり お世話になんかなってない。お世話してくれるの、看護師さんだもん。
医者 相変わらず、げんきがいいなあかおりちゃん。
かおり 元気がよかったら入院なんかしてませんー。
看護師 してません、と。(カルテに書き込む)
母 どうしましょう先生、ずっとこの調子で。絶対に手術受けないと言い張るんです。
医者 かおりちゃん、今なら出血大バーゲンをしてあげてもいいんだよ。
母 あっらー嫌ですわ先生、バーゲンですって、バーゲン?まあー、そういうことは早くおっしゃって頂かないと困りますわあ。これ、かおり。今なら安いのよ、半額にして頂けるのよ。今のうちに、是非、是非是非、受けておきなさい。
看護師 受けておきなさいっとー。
かおり だって、成功率、すっごーく低いんでしょ。世の中には半額になると、一緒に成功率まで下がっちゃう医者がいるのよ。いやよ、そんなの。
医者 手術は僕が担当するんだ。大丈夫、成功率は値引きしないから。
かおり 値引きしなくても十二分に低いからやだ。
医者 成功率が十二分、いや十三分に低くても、助かるときは助かるんだよ。
看護師 助かるときは助かるんだよ、と。
かおり 助からないときは、助からないのね。
医者 そりゃそうだ。
かおり やぶなのね。
看護師 やぶ、っとー。
(医者、胸を押さえる。心臓が痛いようだ。)
母 かおり!お医者さまにそんなこと言っちゃいけません。間違っても、やぶなんて言っちゃだめよ、やぶなんて。
(医者、胸を押さえたままうずくまってしまう。相当痛いようだ。)
母 あら先生、どうしました?
医者 いえ、ちょっと…
看護師 このおばん、何てこと言いやがる、とー。
母 先生?
医者 いいいいいいい言ってません言ってません言ってません!
看護師 僕が言いましたっとー。
母 先生?
医者 6割引き6割引き6割引き。
母 あら
医者 とにかくかおりちゃん、病気が進行しないうちに早く手術を受けておくことが大切だ。若い人の体は活発だから、病気もそれだけ早く進む。よく考えておいてね。
(医者、とても爽やかに去る。)
看護師 考えておいてね。(間)っとー。(去る)
母 考えておくのよ。(去る)
かおり んべえぇー、だ。
(暗転。客席をうろつく3人組あり。)
カンパ おーい、見つかったか?
ジュリ 見つかりませんわ。
さだこ そっちはどう?
カンパ 見つからねーよ。全く、どこ行っちまったんだか。
さだこ ずいぶん探したのにねえ。あたし、三途の川で日焼けしちゃって、ほら見て、こんなに皮がむけるのよ。
ジュリ 大変、皮膚ガンになりますわ。
さだこ もう充分白血病よ。
カンパ おい、おれ、今度はあっちの方を探してみるよ。
ジュリ いえ、ご一緒させてくださいませ。
さだこ そうね、あたしも一緒に行くわ。その方がいいでしょ。
カンパ そうだな。
(3人組、消えていく。母親たちが去ったのと反対から、かおりの兄登場。)
兄 ああ、あの子は相変わらずわがままを言って、またお母さんたちを困らせている。明日の自分の命がどうなるかも分からない、明日死ぬかもしれないというのに。かおり、かおり。
かおり 誰?
兄 お兄ちゃんだよ。
かおり …嘘。あたしのお兄ちゃんは、2年前に、交通事故で死んじゃったのよ。
兄 お前があんまりわがままだから、会いにきたんだよ。かおり、どうして手術受けないんだい?
かおり だって。…お腹、切ったりはったり、すごく、時間もかかるし、痛いし、それに、それで、それで、必ず助かるわけじゃ、ないんだもん。………怖いの。あたし、本当は、怖いの。すごく怖いの!
(間)
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